MMMとCLiQを開発することになったきっかけ

MMMとCLiQを開発することになったきっかけ

ソーシャルメディア(SNS)を通して発信される情報が社会問題となるケースがあることは,皆さん周知のことであろう.ネットの炎上,誹謗中傷に始まり,SNSを利用した詐欺,2016年の米国大統領選挙における他国の介入,2024年ルーマニア大統領選挙の無効化等,世界各地で様々な社会問題が発生している.2022年11月にノルウェイのオスロでNATOの第1回認知戦ワークショップが開催されたとき,たまたまシリアスゲームの専門家として日本の代表団の一人として参加する機会を得て,NATOではこのような問題を「認知戦」という新しい戦いの様相としてとらえ,対処法について様々な観点からこれから取り組もうとしていることを認識した.NATOの隣国は我が国の隣国でもあり,インターネットを利用した認知戦ではノードレベルの隣国は全ての国家である.そして思いついたのが,目には見えない戦いである「①認知戦の可視化」と,「②認知戦の対処能力向上」を目的としたシリアスゲームの開発構想である.

2022年11月NATO第1回認知戦ワークショップ(ノルウェイ・オスロ)

その後,2023年11月にはスペインのマドリッドでNATOの第2回認知戦会議が開催され,2024年5月にはオランダのアムステルダムでNATOの認知戦分科会が開催され,NATOとして検討されている認知戦対処は同盟国である日本にとっても同様に重要と考えたことから,以下に示す経緯でMMMのとCLiQの開発を行ってきた.

2023年11月NATO 第2回認知戦会議(スペイン・マドリード)
2024年5月NATO認知戦分科委員会

①認知戦の可視化に関しては,2023年4月から古市研究室に合流した博士後期課程の学生が研究テーマとし,当初はモデリング&シミュレーションによる可視化を目指し,その成果は米国・サンアントニオで行われた国際会議で発表した.その後,2024年9月から古市研究室に合流したユトレヒト芸術大学の学生が考案したのが,MMMである.MMMは認知戦を単に可視化するのではなく,自らが影響工作をすることによって認知戦の概念を理解することを目標とした.MMMは開発を完了し,東京ゲームショウでプレイすることができる.

一方,②認知戦の対処能力向上に関しては,2024年4月に古市研究室に配属された3年生と様々な先行事例を調査し,認知バイアスに絞ってゲームのコンテンツを作成し,その認知バイアスに影響されないようにする体験をすれば,対処能力が向上するのではないかと開発をはじめたのが,CLiQである.CLiQはその後NHKの番組でも取りあげられ,番組専用に改造して多くの人に見てもらうことができた.その後コンテンツを充実させたバージョンを,東京ゲームショウでプレイすることができる.CLiQについては,今後も引き続き改良を続けて広く普及させ,国民全体の認知戦対処能力の向上に利用されることを目標としている.